音色について

左から:「つれない心(カタリ・カタリ)」(エンリコ・カルーソー)、プッチーニ「トスカ」第2幕(マリア・カラス、レナート・チオーニ、ティート・ゴッビ)、ベートーベン「エリーゼのために」(エマニュエル・アックス)、ベーゼンドルファーについて語るアンドラーシュ・シフ。

ピアノに関しては、「音色」について多くの議論がありますね。ピアノの個性、そして演奏者の「持ち音」です。

歌手との関係で考えると、体が楽器となってその音色―声を出しています。身長、体重、頭のサイズ、特性に関わる遺伝的な要因…音色の個性や特色は、物理によって決定されているということでしょうか。

たとえば、偉大なテノール歌手のエンリコ・カルーソーは、非常に大きくてよく響く音色を持っていたと言います。彼は非常に口腔内が広かったそうです。口の中に生卵をまるごと入れて口を閉じても、殻を割ることはなかったほどに!

また、YouTubeでマリア・カラスの「トスカ」を聞いたときの衝撃も決して忘れません。トスカがスカルピアを殺す第2幕の終わりに向かうシーン、緊張とトスカの情熱が歌声を通して表現されていて、魅了されました。マリア・カラスの声で、私はトスカの世界へ惹き込まれたんです。

一方、ピアニストは楽器であるピアノを通じて音色を作り出します。ピアノ自体が持つ音の特徴と、ピアニストの持ち音が調和し、唯一無二の音色となります。

ですから、最高の音色で演奏するには、ピアニストは演奏する楽器を深く理解せねばなりません。そのピアノでできることとできないこと、それが演奏上どのように影響するか、分析します。ピアノの演奏においては、楽器そのものの特性とピアニストの個性・特徴が音色のすばらしさに大きく関わるのです。

音色の美しさに驚かされたのは、カーネギーホールでのエマニュエル・アックスのコンサートでした。彼は今シーズンもカーネギーホールで公演予定ですが、その音色はは美しく、温かみがあり、非常に豊かです。

また、ピアノメーカーによる特徴の差も興味深いことです。たとえば、スタインウェイは全体的にとても華やかで、低音は大きく響き、高音は非常に煌びやかなのが特徴です。

ベーゼンドルファーはより深く、より芯のある音で、スタインウェイよりも細やかなコントロールが必要です。私はウィーンの楽友協会にあるベーゼンドルファーの本店で練習室を借りたとき、サロンのピアノからこれを学びました。私はそのピアノの最も美しい音色を出すために、たくさんのコントロールや演奏上の工夫をしました。そしてとうとう、ベーゼンドルファーが「鳴った」ときの喜びを今も忘れません。胸がときめくような美しい音色…この経験は、今年のファウスト・ハリソン・ピアノズでのリサイタルで非常に役立ちました。

ピアニストが、音色への関心を高め、独自の音色で演奏しようとすることは、画家が最高の絵画を描くために自分の絵筆やキャンバスにこだわりを持つことと似ていますね。

 

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インスピレーションの源:エフゲニー・キーシン