



フード
何世紀にもわたり、多くの音楽家は美食家としても知られてきました。あなたもその仲間入りを果たしたと言えるでしょう。クラシック音楽家としてのあなたの立場から、それがあなたにとって重要な理由をお聞かせください。
私にとって、食べ物は人生に対する情熱を共有できる素晴らしい自己表現の手段です。食べることが大好きですが、お料理も好きです。キッチンに立つとき、私はさまざまな調味料や食材に「思い」も組み合わせます。自分が伝えたいことを「伝える」料理を作るのは本当に難しいことです。キッチンで誰かのために料理をしているときは、その方への特別な思いや愛を込めるように意識しています。これは私が本当に楽しんでいるプロセスです。
歴史的に、多くの作曲家が食べ物とどのように関わり、どのような影響を受けたかは、私にとって興味深いことです。何世紀にもわたって多くの音楽家にとって食べ物が創造性の源となってきたのだなと感じさせられるのです。例えば、リストの「ノルマの回想」に取り組み始めたとき、イタリア料理の、トマトソースと揚げナスのパスタ=パスタ・アッラ・ノルマが、オペラ作曲家のヴィンチェンツォ・ベッリーニと彼のオペラ「ノルマ」にちなんで名付けられたことを知りました。作家のニーノ・マルトリオが初めてそれを味わったとき、「これは本当のノルマ!」つまり「傑作だ!」と言ったため、この料理だけでなく、最高に価値があるものを連想させるようになりました。
他にもたくさんの例が思い浮かびます。作曲家のジョアッキーノ・ロッシーニは、トリュフを詰めた七面鳥一羽などの豪華な料理を出すディナーパーティーを開くのが大好きでした。彼は有名なシェフのアントナン・カレームと親しくなり、カレームを「私を理解してくれる唯一の人」と評しました。また、オーストラリアのソプラノ歌手ネリー・メルバと彼女の桃への愛を称えてシェフが作ったピーチ・メルバのような料理からも、アーティストと食べ物の強いつながりがわかります。
人生に対する熱意の1つは、「食通」であることのようですね。単に栄養補給のためだけではなく、食べ物は自分の個性や興味を周囲と分かち合う手段であるように思えます。それはなぜですか?
素晴らしい食事は素晴らしいパフォーマンスのようなものです。それは、すべてを味わい尽くす間にその人の感覚を喜ばせます。そして、それを味わう中で食べ物に関することだけでなく、おそらくその人自身の内側に何かを見つけ出すので、何らかの形でその人に変化を与えると思うのです。自分が何が好きで、何が嫌いか。「同じ作曲家の別の作品」のような感覚で、別の調理法でもう一度それを味わってみたいと思うことも。味覚からの刺激はより多くを学びを運んでくれます。
レストランに行くときはいつも、メニューの中から自分が好きなものを選びますが、レシピや盛り付けのアイディアなど、プロの手法を盗みたいという気持ちで選ぶこともあります。それは、リングイネとアサリの新しいレシピだったり、スパイスがたくさん使われたソースだったり、食べてみるまで味の想像ができない味のアイスクリームだったりします。私にとってこれは、主題が様々なバリエーションで変化していく楽曲を学ぶのとよく似ていて、食事の楽しみを増してくれます。
私はいつもお料理することとその後のお食事の時間は、ただの一連の流れではなく、さまざまな要素がうまく組み合わさって1つの素晴らしい体験になっていくものと考えてきました。それは、お祝いと結びついていたり、多くの場合、人や出来事を記念する方法です。最高の食卓では、すべての風味と、それをキッチンからテーブルに運ぶプロセス全体が考慮されています。よく考えてみると、食材の新鮮さから風味を引き出す最高の調理法、料理に入れる調味料に至るまで、非常に多くの要素が関係しています。
私にとっては、これは公演のために楽曲を準備するのと同じようなものです。作品の成り立ちや作曲された状況を理解する一方で、それを聴きに来てくださるお客様のことを考え、私が加えることのできるあらゆるニュアンスを考慮し、私が伝えたいメッセージを可能な限り完全に伝え、お客様が一音一音を「味わう」ように作品を生き生きとさせなければなりません。
結局のところ、食べ物というものは栄養補給のほかに、お祝い、なぐさめ、そして幸福といったメッセージを、状況に応じて多かれ少なかれ運ぶものだと私は信じています。食材は音符のようなもので、レシピは実際、作曲のようなものです。ピアノ曲にさまざまな感情の層があるように、私が最も楽しむことができる料理は、さまざまな味の層を味わうことができるものなんです。 その料理は単に栄養を与えてくれるだけではなく、私の感情を養ってくれます。「 ラーメンを食べることは、自分の魂をハグするようなものだ」、と誰かが言っているのを聞いたことがありますよ。
おいしい食べ物や音楽は、体と心を養ってくれます。
写真:食べ物、素晴らしい食べ物!常に新しい料理や文化に興味を持つ那奈は、左から、ベトナム料理レストランのフォー(米麺)、インドのカレーとナン(発酵させた平らなパン)、母方の故郷である香川県のソウルフードであるうどん、フルーツパフェと一緒に食べたプリンアラモード(8歳、父親と一緒)。