基礎学習が与えてくれるもの (2025年7月14日)
左から右へ:スヴャトスラフ・リヒテルによるショパンの「練習曲 ハ長調 作品10-1」。何時間もかけてアルペジオを練習せずに、この曲を演奏できるなんて想像できますか?;ヴァレンティーナ・リシッツァによるショパンの「練習曲 イ短調 作品10-2」。これほど自由に演奏できるということは、彼女がまず半音階のみの練習をしたということです。;クラウディオ・アラウによるリストの「リゴレット」。素晴らしいオクターブ奏法です。;ダニエル・バレンボイムによるベートーヴェンの「ピアノソナタ第3番 ハ長調 作品2-3 アレグロ・アッサイ」。トリプルトリル!
今月初めに香川県のMIMOCAでコンサートを終えた後、特にお世話になった方にお礼の手紙を書きました。国語科教師の母は、「具体的で個人的な内容で、親しみやすいものにするけれど、手紙の書き方の作法を守り、正しい敬語を使いましょう」とアドバイスしてくれました。
手紙を書き終えたとき、音楽は手紙を書くことによく似ていると思いました。楽譜や演奏にはルールや基準がありますが、最終的には、それらを守ることで、自分の考えや感情を表現する自由が得られ、感情のメッセージを伝えることができるのです。守るべき要素を理解し、それを用いることで表現できるということです。
私たちはしばしば、ルールは束縛するもので、最高の自分になることを妨げていると考えがちです。でも、実際には全く逆だと思います。確立された一連のルールの中で行動することを学び、それに関連する技術を習得することで、より優れた形でさまざまなことを達成できると思います。
テニスボールを反対側のコートの特定の場所を狙って打てるよう練習を重ねることで、相手が返球しにくい打ち方ができるようになり、ゲームに勝つことができます。
画家が絵を描くとき、最終的な成果は、その筆遣い一つ一つに、自分の意図を正確に表現する能力が高く備わっているかどうかにかかっています。
すべてのゲームにはルールがあり、すべての手順には確立された一連の規則があります。それは、すべての楽器に最高の音を出すためのコツがあるのと同じです。最も美しい音を生み出すために必要なすべての要素を完璧にマスターするためには、それらをすべて理解し、達成するためにできる限り練習する必要があります。生涯に渡って実践せねばならないことです。
熟練したピアニストになるには、楽器に関連するあらゆる要素を「道具」として扱い、それらの使い方を可能な限り完璧に習得する必要があります。音階、トリル、オクターブなど、厳しい訓練を通して習得しなければなりません。そうすることで、音楽に込められた感情のすべて、そしてピアニストが聴衆に伝えたい作曲家のメッセージをすべて自由に表現できるようになります。
練習とは制限ではなく、力です。音楽が伝えようとした美しさを、可能な限り完全に、そして制限なく伝えるために必要なことで、それを実現できる大きな力です。